なぜ今この話題なのか
消費者が製品を探すとき、Google検索だけでなくChatGPTやGeminiに直接相談するケースが増えています。こうした「AIチャットボット」(対話形式で回答するAIサービス)経由の流入は、小売企業にとって新たな集客チャネルになっています。
ただし、小売各社はこの流入を歓迎しつつも、一線を引いています。それが「顧客データは渡さない」という姿勢です。Walmart、Ulta Beauty、Wayfairといった大手小売企業の動きから、EC運営者が学べる点を整理します。
AI経由の流入は「発見」に強い
美容小売のUlta Beautyは、GeminiやChatGPT経由で自社製品を見つけた購買者について、コンバージョン率と購買意欲が2倍になっていると述べています。これは、AIアシスタントが商品を推薦する「発見」の場として機能していることを示す具体的な数字です。
Ultaはさらに一歩進め、Googleと連携し、Gemini内のAIショッピング機能に自社のショッピングカートやロイヤルティプログラム「Ulta Beauty Rewards」を統合する取り組みを進めています。AI上での発見から自社の会員基盤への接続を狙う動きといえます。
それでも購入は自社サイトで完了する傾向
注目すべきは、ChatGPTやGeminiが製品マーケティングの重要な経路になりつつある一方で、消費者は購入そのものは小売企業自身のサイトで完了することを好む傾向がある、という点です。
この傾向を裏付ける動きとして、OpenAIは2026年3月にChatGPT上で衣料品などを購入できる「Instant Checkout」機能を終了しました。現在は商品発見の支援と加盟店支援に注力する方針に転換しています。つまりAI側も「決済までは担わない」方向にシフトしているということです。
小売企業が守りたいのは「顧客データ」
小売各社の経営陣は、「小売企業は汎用AIアシスタントよりも自社の顧客をよく知っている」ことこそが守るべき資産だと主張しています。
整理すると、小売各社の立場は次のようになります。
- AI経由の流入(発見)は積極的に受け入れる
- 決済・購買データは自社サイトに誘導して確保する
- ロイヤルティプログラムなどを通じて、AI経由の訪問者を自社の会員基盤に結びつける
これは、AIチャットボットに「発見の窓口」としての役割を委ねつつ、顧客との関係性そのものは自社で持ち続けるというバランス戦略です。
EC運営者への示唆
この動きから、非エンジニアのEC運営者でも実践できる示唆がいくつかあります。
- AI経由で見つけてもらう対策を後回しにしない:ChatGPTやGeminiが商品を推薦する際に、自社商品の情報が正確かつ豊富に反映されているかを確認することが重要です。こうした「AIに見つけてもらいやすくする対策」の状況を把握する手段として、AIOチェッカーのようなツールで自社サイトの現状を確認しておくと良いでしょう。
- AI流入後の導線を自社サイトに設計する:消費者は購入完了を自社サイトで行いたいという傾向があるため、AI経由の訪問者がスムーズに会員登録や購入に進めるページ設計が求められます。
- 顧客データを自社で保持する仕組みを用意する:ロイヤルティプログラムや会員登録との連携など、AI経由の訪問者を「その場限りの訪問者」で終わらせない仕組みが必要です。
まとめ
AIチャットボット経由の商品発見は着実に伸びていますが、購入の完了は依然として小売企業自身のサイトが主流です。大手小売各社は、AIを「発見の入口」として活用しながらも、顧客データやロイヤルティ関係は自社で守るという二段構えの戦略を取っています。EC運営者にとっても、AI経由の流入を取り込む施策と、自社での顧客関係構築を両立させる視点が今後ますます重要になります。
参考
- Retailers tap AI shopping traffic but fight to keep customer data - Union Leader
- Retailers tap AI shopping traffic but fight to keep customer data - KFGO
- Retailers chase AI shopping traffic while guarding customer data - technology.org
- Retailers tap AI shopping traffic, fight to keep customer data - Euronext
